言葉を超えた、さらにいえば言葉を思考する生命の存在をも超えた、およそ想像しうるかぎりの無上の快楽の瞬間がそこに横たわっているとしたら、はたしてそれを「言葉」で描写してみようなどと思うだろうか。

第五章-光あるうち光の中を歩め-絶対的な歓喜の断片(前編)
text by - 中村犬蔵

■2年前の夏。琴似でエヴァンゲリオンの人形(もちろん初号機。このへんが2年前)を衝動買いし、無目的に散歩をしていた時、旧5号線沿いに『甘木ビスケット(仮名)』の工場兼直営販売所を発見しました。自宅の近所なのですが、土日は休業らしく、開いてるところを見た事がなかったわけです。

なにげに店舗のドアを見ると『資料館もご覧ください』と云うはり紙が。甘木ビスケットの資料館ならば『世界のビスケット』『ビスケットのできるまで』てな所が王道であるはずだ。これはおいしそうだ。が、覗いて見ると中はガラクタで一杯。甘木ビスケットなのに古物。無機物。これは例えれば東芝が『塩の博物館』を作ったりするような物ではございます。向かって右側に入り口があって『御自由にどうぞ』とあるくせにそのドアは開かない。罠?。

■仕様がないので直営販売所の正面から突入、二百円相当のビスケットを購入し、そこから資料館に案内していただいた。

今にして思えばレジの横にも、色々と珍しい石(大自然のパワー含有系)が陳列されていたのだが、そんな物は文字通り、後の布石にすぎないわけです。

■資料館内は大雑把に分けて三つのテーマゾーンに分かれます。

まず初めに資料館内でも最大の占有面積を誇る、『古道具ゾーン』。所謂小道具全般を収蔵。館内でいきなりドカンと威容を誇るカウンターは、現在は展示台として余生を送っているものの、それは資料館の前身が甘木ビスケット直営のレストランだったことを雄弁にタメ口で物語る。

■その古道具ゾーンのオールスターズを覚えている限り羅列してみると……古タンス、家庭用吸入機(ガラス製。未使用アンプル数本+注射器付き)、古眼鏡、薬箱、博多人形、古い写真、玩具少々、ラジオ、変わった形の楽器、帽子、タイ焼き(orらくがん)の型、顕微鏡、ハッピ、スキー、工場で使っていたと思われる奇怪な機械、古電話、古本、ソノシート(みたいな、何とかフォンという凄い奴)、太鼓、その他思い出せないくらいどっさり。

■そのまた奥には『大人ゾーン』。

壁にアイドルやお姉さんのグラビアやら、怪しげなランジェリー系を展示した6畳ほどのスペース。何故だかここだけ急に秘宝館の様な趣。しかし、何故ここにランジェリーが!(伏線)

■で、最後に応接セット完備の『オーディオ&ビジュアルと紙媒体のゾーン』。

古いステレオ、SP盤レコードとプレイヤー、8ミリカメラと編集器、映写機、未開封の8ミリフィルム。カメラと多様な種類のフィルムケース。これらが全て数台ずつ。しかもすべて完動品である。動くのである。

紙媒体関係は、古い切符数十枚、丁寧にはがされ『フエルアルバム』の台紙に貼り込まれた酒のラベル数十枚、昭和20〜30年代の『明星』20冊くらい、古い少年少女雑誌数十冊。これらは『新刊か!』と思ってしまうほどの超美品。古書店でもこんなの見たことない美しさ。

ついでに寺山修司初版本と天井桟敷のパンフレット、天井桟敷の女優達のグラビア、さらに寺山つながりで『O嬢の物語』フランス版原書、名前は忘れたがフランスの劇画家の手になるリトグラフ(だと思う。国内に3部しか現存しないらしい)、古切手、太平洋戦争勃発当時の新聞と号外数点。

同じく北海タイムスの号外と、従軍写真家が撮った、真珠湾攻撃時の空撮実写写真のプリント(歴史の本で見たのと同じ。)等など。

■これだけのてんこ盛りが『御自由にご覧ください』なのだからたまらない。しかも俺んちから、歩いて90秒だ。おれは盲目か。

しかし、一体誰がなんでこんなものを……。まるで香山滋か海野十三の小説に登場する既知外博士(男爵でも可)の屋敷のようだよと思ったその瞬間、背後から迫る陰が!

『お若いのに興味があるんだね。』お、おじさん誰れれれれれれれれれ!(演出)

後編に続く

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この物語は実話を元に、本人たちに無断で多少の根や葉をつけて脚色したものです。