1999.7.20(026)号
希望を抱き、恐怖に震え、畏怖にうたれる。究極の歓喜があり、耐えがたい絶望がある。サッカーという冒険には、人間のあらゆる感情が凝縮され、すべての営みが投影される。だから、刻まれた記憶は決して色褪せない。

三者三様の7.18 無頭の鷹 SCENE 02 text by - クマザワ ヒロヲ [Bd]

すすべもなくボールはゴールに吸い込まれていく。
剃刀のようなフェイントが中盤ズタズタに切り裂く。
ディフェンス陣をあざ笑うかのように二列目からシュートが決まる。

例えば暴力のような圧倒的な肉体のチカラに対して、いつも言葉はただの言い訳にすぎない。
圧倒的な肉体の力を前に気のきいた言葉なんかまったくの無力だ。
どんなに言葉をナイフのように研いだとしても。

ジョッピンカルの美学はそんな圧倒的なフィジカルな力によって、木っ端微塵にふきとばされた。

ゲームの結果はジョッピンカル札幌(1-7)ホームレス

様の悪戯か、偶然にも同じ頃新十津川サッカーグランド(なんで新十津川なんだ?)で試合開始を告げるホイッスルが鳴り響いていた。
ジョージ小泉@シンク率いるヘモグロビンVS uhbトップクリエーション戦である。

ちょうど一ヶ月前、自分を見つめなおすために生まれ育った街の教会を訪れたBdは偶然にもヘモグロビンの創設メンバー内藤@ジュリアジャパンにであった。
Bdと同じゲットー育ち(本当に同郷)、生きるために見てはいけないことを目撃し、聞いてはいけないこと耳にし、とても口じゃ言えないようなことを繰り返してきた仲だった。
成長ホルモンのバランスが崩れていた思春期、よく一緒に近所のスーパーで万引きをしたり、無警戒な車からカーオーディオ窃盗したりした、そんな仲だった。(本当)
一時期、重度の麻薬中毒で入退院を繰り返していたが、奇跡的にもサッカーが彼を救った。

懐かしい再開を喜ぶ抱擁もつかの間、逞しく日焼けした彼は答えた。
「この街からいつか出ること夢見てた。この悪循環から脱出したかった。
でも、そんな祈りは結局通じなかった。
どんなに神様に祈ったとしても、どんなに多くの友人と出会えたとしても人生なんてひとつも変わらない。
なぜなら、人生を変えるのはいつも自分自身だからだ」
彼はマッチでマリア様の足下にある蝋燭にそっと火を灯した。
「おれは生き急いでたとしてもかまわない。理由があるものはここに残ればいい」
彼は、同じマッチで窓辺のカーテンに火を放った。
瞬く間に火はカーテンを真っ赤に染めていく。
手のつけられない猛獣の唸りのように、炎はどん欲に酸素を取り込む音を響かせた。
火の手は越えられぬ溝のように二人を分断した。

合終了後、ジョッピンカルのキャプテン、ドゥンガ斉藤はフィールドでゴロリと横になった。
「おれたちは、大きな時代の流れに無力にもがいているだけなのかもしれない」
「でも、戦わなければ負けることすらできないんじゃなのか?」

同じ頃、新十津川サッカーグランドでも試合終了を告げるホイッスルが鳴っているはずだ。
しかし、そんなことはもうどうでもよかった。

「おれたちは今日何と戦ったのだろうか」

彼が放り投げた言葉はいつまでも脳裏に舞っていた。

だれからとなくミニゲームが始まった。
ただただ子供のように無心にボールをおった。
いつのまにか、曇った空から大粒の雨が降ってきた。

ロイタ一発・共同通信

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