希望を抱き、恐怖に震え、畏怖にうたれる。究極の歓喜があり、耐えがたい絶望がある。サッカーという冒険には、人間のあらゆる感情が凝縮され、すべての営みが投影される。だから、刻まれた記憶は決して色褪せない。


CG・中村犬蔵

ットボールに於いてフォーメーションの重要性を認識している者は少ない。

フットボールは他のスポーツに比べて最もルールの少ない(シンプルな)競技だといわれている。しかし近代サッカーにおける試合中の約束事は決して少なくない。フォーメーションとは、すなわち戦術である。ここでジョッピンカルのフォーメーションをもう一度見直し、あまりある弱点を探ろう。

←これが今年のワールドカップでも最も多く見られた3-5-2システムである。守りを固めた布陣から早いカウンターを狙うのに適したフォーメーションだ。

2人のストッパーが相手の両FWにマンマークでつき、残ったスウィーパーがカバーリングにあたる。早い段階の攻撃は前の3人で組み立て、両ウィングは運動量を求められ、縦方向にタッチラインから10mは完全に任せられる。

←これがジョッピンカルの3-5-2である。

違いは一目瞭然だ。まず両ストッパーがペナルティエリアの外まで開き、ゾーンディフェンスとなる。両ウイングはボランチのラインより高い位置を保ち、体力のなさもあってディフェンスに戻れない。また両FWも開いてボールを受けるため、あがってきたウイングとダブりやすくスペースを使えない。中央の3人の位置取りが正しいのが解るだろう、G-PAN、NAMBU、HIDEである。駆け上がったG-PANが孤立しやすい理由も理解しやすい。

の監督代行時代、一部の心あるメンバーから「ウィングバックのポジションの取り方が解らないのだ」との質問があった。個人技に走る多くの人の中でなんと素晴らしい質問だろう。

答えはクラブごとで約束があるだろうから一概にはいえないのだが基本は、ボランチのラインと同じ高さを意識することだ。守備的にするのならば低く、攻撃的にするのならボランチより高くすればいい。また両ウィングが一度に駆け上がる必要もない。今季ジョッピンカルはウィングが駆け上がったスペースを突かれたカウンターを多く受けた。

にディフェンス時のフォーメーションの変化を見てみる。

右図が3-5-2のディフェンス時の形だ。岡田JAPANの対アルゼンチン戦では殆どこの形だった。

両ウィングバックがペナルティエリア左右のスペースをカバーしボランチが2列目の飛び出しを押さえる、両FWもカウンターに備え開きつつもディフェンスに戻り3ラインを保持する。

これがジョッピンカルのディフェンス時の形。

両ストッパーが開いたスペースに両ボランチが戻り、結果的には上記と同じ5人のラインが出来上がる。他の国にも見られない珍しい形だ。

ヴェントスの様な洗練されたクラブチームを除いて、フォーメーションをコロコロ変える名監督はいない。つい気まぐれで4-4-2システムに変えて惨敗(もっと違う根本的理由があるのだが)したGOIS戦でのフォーメーションを比べてみよう。
本的4-4-2ダブルボランチの形。前回のアメリカワールドカップでは主流だった。
れがジョッピンカルの4-4-2

本来、攻撃的ミッドフィルダーが一人増えた分、中盤に厚みを増すはずなのだがウィングバック的な役割と勘違いし(左右のポジションチェンジなど皆無)相手に大きなスペースを与え、やられ放題。慣れないことはするな、という例である。

3-5-2と4-4-2、ディフェンスラインに4人残る4-4-2の方が守備的に思う人もいるらしいが、前述のように守備の時5人で守る3-5-2に対して4-4-2は攻撃の時は実際2人で守っているようなものだ。

ただし両サイドバックが攻撃に参加しまくるのはブラジルかアジアでの日本くらいである。フランスワールドカップに於いて4バックを採用したのはブラジルやオランダなどの強豪国である。(フランスも4バックだったが、あれは4-5-1)

れではジョッピンカルはこの先、どうしていけばいいのだろうか?

まず第一に正しいインサイドキックを習得することである。戦術などは100年早いのだ。

しかし100年経ったら死んでいるので一応、提言だけはしておく。目指す形は全盛期のアヤックススタイル3-4-3なのだ。
ィールドを3角形で10等分し均等に配置。単なる3トップ、3バックでなく、ポジションを激しくチェンジ(ローテーション)していくクラブチームにとって至高のシステムである。

フランスワールドカップは4-4-2で望んだオランダだが、3位決定戦でのみ3-4-3を披露し、まだまだオランダは美学に死んでいない事を知らしめた。

人技に優れないチームほど戦術は重要である。自分のポジションの役割、連携の約束事、戦術の理解度などが増せば来期は勝ち越しどころか、トヨタカップも充分に狙えるだろう。

Text by EiichiroEndo

CG by InuzoNakamura

文藝春秋未公認 Sports GraphicNumderへ戻る