彼女の給料日にたまたま食事の約束をとりつけられればラッキーだ。
気前よくご馳走してくれるだろう。なにも、相手の喜ぶ顔が見たいわけではない。
「イッツ グッド デイ フォー ペイデイ!!!」
ただ、そう言ってみたいからだ。
自立した女性の間では圧倒的に評価が高い山田詠美。
自分の内側だけでなく常に外側との関係性を意識していながらも、読んでて腑に落ちないことが殆どない希少な作家。
それでも、男にとってはどうも眼にみえない敷居がある。読まず嫌いと言われるくらいだ。
なにも特定の登場人物に自分をトレースしているわけではない。それでも見透かされるような痛さはなんだ?
きっとこの人は男の弱さを徹底的に知っている。
しかも、徹底的に弱い男を沢山知っているのだろう。
そのくせ、男を立てることを知っているんだから、確信犯だな。
だから山田詠美を語れるほどでない事をあらかじめ断っておく。
なんせ、代表作「アニマルロジック」未だに最後まで読んでない。腰を据えて書いたのが伝わるからこっちも腰を据えて読まないと悪いような気がしてさ。
さて、びっくりマークが3つ並ぶあたりが確信犯「PAY DAY!!!」
ハードカバーの帯には「山田詠美が青春小説に帰ってきた!」と記されているが、山田詠美が初めて家族を描いたことのほうが特筆されてしかるべきだ。
物語はアメリカ南部の田舎町を舞台にした、2001年の同時多発テロ事件の被害者家族を描いた長編小説。
と1行で書くと出口なしの社会派小説のようだが、そんな不安はまるでない。古き良きロックンロールのように見事に解放されている。「何故、わかりもしない未来を嘆くの?」少なくとも、給料日だけは誰でも少しだけ幸せになれるじゃん、そんな人生賛辞。
舞台が週末に教会でゴスペルを唄うような信心深い田舎町というのも物語に大きく影響する。
給料なんてのは自分が働いた当然の報酬、貰ってあたりまえのモノ、という受け止め方でなく、まるで神様が与えたもうたもののように登場人物たちは感謝する。そして「イッツ グッド デイ フォー ペイデイ!!!」給料日の日くらい、なにかひとついいことをしようよ。
わかりもしない未来を嘆くより、小さいけど確実な幸せ。
ゴスペル風に表現すれば「喜びで心を満たす」
もう何年も給料日に感謝するような気持ちは忘れていた。
給与口座振り込みというのは確かにスマートなシステムだが、いったい自分が幾ら稼いでいるのかの実感がない。ただシステムにデータとして記録され、支払いのため自動的に引き落とされていく。見ないまま消えるお金のなんと多いことか。
マンションを買ったときも不思議に思ったものだ。住宅ローンが通って大きなお金が自分の口座に振り込まれる。銀行の窓口で融資が滞りなく完了した事を告げられ、すぐに不動産の口座へと振り込まれる。一度も現金は見ていない。ほうら、確かに振り込まれました、と一回(ほんの数秒)窓口で通帳を見せられただけだ。
プラス・マイナス・ゼロ。
もう高額になると通貨なんて世の中に存在しなくてもいいんだろうな。
個人事業主なら、お金を稼ぐ大変さを身に染みて知ってる。タンス貯金なんて言葉があるが大抵、個人事業主だ。銀行に預けず壺に貯める気持ちも解る。その壺を覗くたび「喜びで心を満たす」
あなたが雇用者なら、簡単に労働意識を高めるためには特別な賞与くらいは現金で渡すべきだ。それが家族にも知られないのであればなおよし。心に壺をくれ。
ペイオフ解禁だからと言って、現金を握りしめる幸せを説いているわけじゃあない。
僕らはみんな、自分の世界の脆さを知っている。
表現しがたい自分の殻や、架空の世界とのボーダーを越えようとあがいている。
だからこそ、小さいけど確実な幸せに感謝するのだ。
「イッツ グッド デイ フォー ペイデイ!!!」
喜びで心を満たせ。
あーめん。
Posted by enokizu at 2005.4. 6 | トラックバック