ハイビジョンフォーマットの憂鬱

望んでいなくても、現実的(この業界で仕事をしていく都合上)にハイビジョンを取り扱わなければならない時代になってきました。細かな規格について知る必要はなくても、ガールフレンドや家族や子供に「TVの仕事してるんでしょ?ハイビジョンって何が違うのさ?」って訊かれたときに「横長だとサッカーとか観る時、いいだろ」以外にも答えられるように、知ったかぶり好きの勉強嫌いの業界人の為に贈ります。

現在放送されているハイビジョンは (MUSE方式) 信号的に1035/60iといいます。
ただし、もうこの規格は無くなります。さようなら。
日本の郵政省とNHKがバブル期に作ったこの規格は世界に認められませんでした。MUSE方式は放送衛星に組み込まれているため、宇宙のゴミをまたひとつ増やしたのです。みなさんが払ってきたNHKの受信料の殆どがこの開発のために無駄になりました。私は特に腹も立っていません、払ってませんから。
何故、認められなかったのかという理由は簡単です。表向きの理由は、このハイビジョン規格がアナログであるという事になっていますが、世界の放送フォーマットのイニシアティブを日本人にとらせるわけがないじゃないですか。しかし逆に、たとえどんな規格が採用されたとしても、結局その機械を作るのは日本人だろうという事は世界中すべての人が知っています。
そういう事で、もう何年も前にこの現在のアナログハイビジョンはデジタルハイビジョン規格に置きかわる事が決まってはいたのですが、1997年のNAB(米国放送事業者連盟大会)で 欧米の放送業界にNHK以外の新しい眼の上のたんこぶが、歯止めをかけやがったのです。
そこでの論点は、映像表示の基本となる走査方式を、インターレス(飛び越し走査)にするか、プログレッシブ(順次走査)にするか、という事でした。

インターレスというのは間引き走査の事で、現在の放送(ハイビジョン以外も全部)がそうです。半分づつの解像度の2枚の画(フィールド)を重ねて(フレーム)見かけ上の解像度を上げています。つまり正確には、一秒間には60枚の画が連続しているのです。1065/60iの60はフィールド、iはインターレスを表します。ちなみに1065(水平走査の数)ってのは解像度の細かさくらいに思っておいてください。
昔の規格でハードがまだ幼稚だったので、そういうトリッキーなアイディアが採用されたのです。
Web制作に明るい人なら、インターレスGIFという表示方法も同じ理屈です。いまやPCもパワーがあるし、通信環境も整ってきたので、もうインターレスGIFを使う人は少ないようですが。

プログレッシブというのは、単純に飛び越し走査しない事です。一秒間にきっちりフル解像度で30枚の画が並んでいます。インターレス表示は映像が流れているときは眼の残像現象を利用してフル解像度に見えるのですが、その一枚一枚(フィールド)は半分の解像度しかありません。フレームで止めると1/60秒のズレがある2枚の画が重なっているため、見苦しいちらついた映像になります。
だったら、プログレッシブの一秒=フル解像度30枚のほうがいいような気がしますが、インターレスの一秒間に60枚のほうが動きのある映像はなめらかに見えます。人間の眼はアナログゆえに、一秒間に30枚以上の画は軽く認識してしまえるのです。
考え方としては、データー量が半分だからインターレスは同じ時間(たとえば1秒間)に倍の枚数を送れる、と考えてもらってもいいです。(ホントは一次元処理された電波の周波数)

つまり、一枚一枚の画質優先か、動きのなめらかさを優先するかで、ふたつに意見が分かれたわけです。

と、ここまでが、表向きの理由です。
頭の廻る人なら、ここまで読んで「じゃあ、技術的にがんばって、プログレッシブで60フレームにすればいいじゃないか」と思うでしょう。しかし、そうはならないのが政治と経済なのです。

つづく。

2001/10/15追記
この後、ハイビジョンで仕事をする事になっていたのでその前の下調べ原稿でした。
結局、続きはアップしなかったのですが・・・
プログレッシブ(順次走査)を推進していたのはマイクロソフトなどを筆頭とするPC業界だったわけです。要するに世界中のTV局や放送業界がPC業界にメディアのイニシアティブを奪われるのを恐れているのです。

Posted by enokizu at 2000.11.15 | トラックバック
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