『模倣犯』; 宮部 みゆき (著)
小学館 ;単行本 - <上・下巻・各1900円>
内容(「MARC」データベースより)
公園のゴミ箱から発見された女性の右腕。それは「人間狩り」という快楽に憑かれた犯人からの宣戦布告だった。比類なき知能犯の狂気に立ち向かう第一発見者の少年と孫娘を殺された老人、二人を待ち受ける運命とは?
正月の休みは、自宅のPCを修理に出していた。(落として壊した)
携帯電話の電源も切った。
メールも電話も届かなくなった今、いざ、アナログな時間を満喫するのだ。
で、昨年からどこの本屋に行っても平積みされているのが上記の『模倣犯』(宮部 みゆき)
「ダ・ヴィンチ」始め、あらゆる雑誌・新聞で2001年度のナンバーワンと評されていたので、機会があれば読んでみたいとは思っていた。
しかし、なにしろ分厚く、上下巻のページ量は文庫本6冊相当(当社比)
とても持ち歩いて読みような本じゃあない。休暇の間に読むにはうってつけ。
以前はこのようなハードカバーは、文庫になってから読もうと決めていたものだが、男性作家と違って、女流作家の場合、文庫版出版に至る場合、改稿することが多い。要するに時間が掛かる。同じく1998年のナンバーワンと評された『レディ・ジョーカー』(高村薫・毎日新聞社)が未だに文庫化されていないのもおそらくそのせいだ。
たまには、映画や音楽やサッカーやゲームやモー娘に興じず、いざテキストの海へと帆を立てるのだ。
内容をネタばれにならない程度に紹介する。
上下巻合わせて1400ページ以上という長さに引いてしまう方も多いかもしれないが、内容はやさしく、かの京極夏彦の『鉄鼠の檻』(講談社文庫)より、100倍楽。(当社比)
本編は3部構成になっており、第一部で、事件を、第一発見者、被害者、被害者の家族、警察、ルポライターなどさまざまな視点から語られている。
そして、第一部の終わりには、なんと犯人がひょっこり現れてしまう。上巻の半ば過ぎあたりだ。
この時点で、この物語が、謎解きやミステリー小説ではなく、犯罪をモチーフにした社会小説である事を知らされる。
近年の猟奇的犯罪を表層的な部分だけを追うマスコミの報道の批判や、残された被害者の家族の描写に多くのページを割いている。
第二部では、逆に事件を犯人の視点で語る。そして第一部終了と同じところまで時間経過が進んだところで、第三部、真の事件解決に向かって時間が進む。
最初は登場人物が多く、面食らうことも多いかもしれないが、この多視点描写の手法は、直木賞を受賞した前作『理由』(朝日新聞社)と同様。物語をミステリーや謎解きに留めず、人間の心理描写によって綴る手法は1992年の作品『火車』(新潮文庫)によって確立されている。『模倣犯』を読んで他の作品にも興味を持ったのなら上記の二作品がおすすめ。
僕は偏屈なので、ひと言、付け加えるならば、第三部がいささか強引、真犯人は最後まで徹底した冷徹さを持って欲しかった。ルポライターの言葉に動揺するのは、一部、二部で完璧なふるまいをみせていた同一人物とは思えない。
もし、この手を映画化するには、シリアル・キラーには理解しがたい邪悪なオーラが必要だ。
あと、犯人の残酷な犯罪手口に関しての描写。
具体的な場面に於いて、作者の生理的ブレーキが掛かっているのが解る。少年の描き方について顕著に表れるのだが、この作品の作者が女性である事が隠しきれない。まあ、隠す必要はないかもしれないが、このあたりが、読み手の生理を揺さぶる天才、高村薫との違いなのだろう。
しかし何を言おうと、この本は売れているし、支持される。
いくら景気が悪いとか、実際にもっと猟奇的な犯罪が起こっているとはいえ、こういった社会小説が売れるのは、まだまだ世の中も捨てたもんじゃあないなあ、と安心できるのです。
貶してるのか誉めてるのか解りにくいが、僕がこの一年くらいに読んだ本の中では、ベスト3に入るだろう。
ナンバーワンは女王、山田詠美の『姫君』(当社比)