1999.8.4(029)号
希望を抱き、恐怖に震え、畏怖にうたれる。究極の歓喜があり、耐えがたい絶望がある。サッカーという冒険には、人間のあらゆる感情が凝縮され、すべての営みが投影される。だから、刻まれた記憶は決して色褪せない。

アンビエントサンクチャリー/
下水処理サッカーグランドの土(仮題)
text by - クマザワヒロヲ(Bd)

あれ以来、札幌では雨の日がつづいている。
無論、都市では雨は土にしみ込む機会は少ない。
誰の泪雨であろうがそんなことはお構いなく、
雨はアスファルトに叩き付けられ、行き場を失い、雨水枡(マス)へ集まる。
タバコの吸い殻やら落ち葉やらと一緒に雨水は、水洗便所からのパイプや家庭排水のパイプと合流して、汚水となって下水処理場へと向かう。

そこで汚水を待ち受けてるのは、有機物を好む大量のバクテリアだ。
バクテリアがもっとも貪欲に活動する環境に設定されたプールの中で、
汚水の有機成分は徹底的に喰い尽くされる。
そして、腹一杯有機物を喰ったバクテリアもろとも、大量の塩素で殺菌される。

徹底的に殺菌され、無害化された汚水は微かなパルプ臭を残して海へと流されていく。
下水処理場の行程はバイオテクノロジー科学の結晶だ。
都市の恨み面みのような有機物はそうして消毒されていく。

最後の最後、処理しきれなかったものは汚泥(おでい)として処理される。
そして、汚泥は限りなく無機物化され再利用される。
下水処理場サッカーグランドの土などへ…。

つまり、うんこや洗い流したマヨネーズやタバコの吸い殻を
処理してくれるバクテリアの死骸の上でボールを蹴りあったり、ヘディングしたりしたのである。
(どうりで無料のグランドなわけだ)
東京から芝のフィールドでやりたい一心でわざわざ北海道までやってきたドマーニには
内緒にしておこうね。この話。

そんな手稲山口下水処理場サッカーグランドに集まったメンバーは13人。
もちろん、ドマーニ3人のメンバーを入れて。
しかし、対戦相手は大同ほくさんはおろか、ここをホームグランドにしているヘモグロビンも
やってこなかった。

都市では想いはいつも消毒され、無害化される。
しかし、その痕跡は例えばグランドの土として残っている。
今日も7対6のミニゲームが始まった。
雨は降り続いている。

ロイタ一発・共同通信

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