1999.6.28(022)号

フットボール100年戦争-フィールドの神と悪魔

1998ワールドカップフランス、その熱狂の余韻もさめやらぬ7月18日午後7時、札幌市第一高等学校グラウンドでジョッピンカル札幌最初の公式戦が行われた事は極地的フットボールファンの間では忘れられない記憶だ。その最初の相手がホームレス。伝説のクラブチームであった。
かつて札幌に協同広告社という強力な個性とパワーを持ち合わせた広告代理店があった。誰もの心に残る協同広告社は、その強力な個性とパワー故に自爆した。その元協同広告社のメンバーたちが中心となったフットボールクラブ「ホームレス」故郷や友を失い、今も戦い続ける彼らの国歌(3番までありやがる)の一節では今も歌い続けられている「協同死すともチームは死せず」イメージが掴みにくい読者は、1958年、悲劇の航空機事故でレギュラーの大半を失いながら炎の復活を遂げたマンチェスターユナイテッドを連想して欲しい。

スコアは0-8。完膚までなきに叩きのめされたどころか、病院送りにまでされた。「普段から運動しない人が準備運動もしないで急に走るからですよ」と医者は私に告げた。

その日からジョッピンカル札幌、100年の記憶が始まったのだ。

1999年6月26日、4チーム参加によるカップ戦「コパ・つどーむ」が開催された。ここにほぼ一年振りに、ジョッピンカル札幌vsホームレスのカードが実現したのである。
第一期ジョッピンカルのメンバーは勿論だが、ことさらモーニング所属の選手のこの試合に賭ける意気込みは尋常ではなかった。ホームレスといえば、新自社ビルも完成した広告代理店「世界の電通北海道クリエーティブ局在籍メンバーも多く、広告プロダクションであるモーニングにとっては様々な、しがらみがあるのかもしれない。事実、彼らは26日の「対ホームレス戦」を特別なコードネームで称していた。
「対アサヒサンセン」
アサヒサンセン?これが、誰かホームレス所属の特定の個人に対して日頃の仕事のストレスをぶつけようとしたものか、「トラトラトラ」のような単なるコードネームなのか筆者は知る由もない。しかし彼らにとって特別な想いがあったことは確かで、当日、モーニング所属のジョッピンカル選手は、一人残らず全員出席したのが紛れもない証拠だ。

もうひとり特別な想いと闘志で望んでいたのは、炎のキャプテン、ドゥンガ斉藤だ。
チームのテクニカルな部分を一手に引き受ける彼のこれまでの総決算になる事は間違いないが、「ホームレスに完敗するようであればチームを去る」と関係者に漏らしていたのも紛れのない事実である。実際はチームを掛け持ちしすぎて収拾がつかなくなったから、だとしてもだ。

「コパ・つどーむ」開幕カード「対アサヒサンセン」のホイッスルは鳴った。
ジョッピンカル監督、榎木津礼二郎は、彼らの熱い想いをくんで、モーニング所属メンバーを中心に先発メンバーを組んだ。技術、戦術、そして平均年齢40歳に届こうとするホームレスには経験でさえ勝てない、我々に持てるのは唯一つ、正義だ。

ゲームが動いたのは前半終了間際。圧倒的にゲームを支配され続けていたジョッピンカルだが、自らボールを持って右サイドを駆け上がったドゥンガ斉藤が低いクロスをゴール前に流し込んだ。ゴール前を抜けたボールを逆サイドから走り込んできた石井@モーニングが正義のダイレクトシュート、今季最も貴重なゴールにベンチは沸き、その瞬間、主審までもがガッツポーズで応えた。

後半もホームレスのペースは続いたが、相手のミスにも助けられ、リードに浮かれたベンチは、試合そっちのけで世間話に乗じた。したがって追加点をあげたG-PAN@モーニングのシュートを筆者は見ていない、すまん。ちょうど日焼け止めを塗っている最中だったし、記録のカメラを廻していた加藤でさえ世間話に乗じていたからだ。

後半も終了間近になると榎木津礼二郎は、前線のBOYAN@モーニングを下げDF、SEIJI@映像記録を投入、守備を固めてそのまま2-0でゲームは終了。内容はどうあれスコア的に完勝、これがフットボールというものなのだ。

続く第2戦、ノヴェロFC対ジョッピンカル札幌は、ホームレス戦の勝利に涙で曇ってボールが見えず、あっさり0-2で負けた。モチベーションが下がっていたのは否定できないが、ああ、なんとメンタルなスポーツなのだろうか、これがフットボールというものなのだ。

一方、明らかに格下のジョッピンカルに苦汁をなめたホームレスは続いて北星大学GTS戦。1-0でリードしながら、後半、カウンターから単独で持ち込まれ、角度のないところからのアウトサイドの見事なシュートで同点、終了間際には、ペナルティーエリア内で痛恨のハンドで、まさかのPK、1-2で逆転負けした。これもフットボールというものなのだ。

本来、最後に合同チームによるスペシャルマッチが予定されていたが、白昼の悪夢に犯されたベテランチーム・ホームレス所属の朝日さん(仮名)は、「もうやる気がない」とビールの栓を抜き「やりたい人だけでやってくれ」と野外バーベキューの準備を始め、フィールドを炭の煙で満たした。さすがベテラン、これがフットボールというものなのだ。

1勝1敗、得失点差0という成績でコパ・つどーむを終えたジョッピンカル札幌だが、初期の目的を完遂した充実感は大きい。ここでチームは建て直しと整理のために20日間の休養にはいることになっている。新たなシーズンには新たな相手が待ち受けているだろう。もう勝った相手を振り返ってはいけない、勝ち逃げ、それが正義だ。

次の試合は7月18日(日)13:00、ホーム白旗山競技場だ。
対戦相手として、ホームレスから脅迫に近いほどの強いオファーが届いている。

これがフットボールというものなのだ。

ロイタ一発・共同通信

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